これですか?とまたつっこまれそうですが、スプリームスのシングル紹介第2弾。何を隠そうこの夏はまりにはまって繰り返し聞いていたのがこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」(試聴できます。
そんなこともあって、長らくこの曲は封印されていたわけですが、この夏は前回紹介した「LOVE CHILD」や「スラムの小鳩/I'M LIVIN' IN SHAME」などとともに、1960年代末期のダイアナ・ロス&ザ・スプリームス時代の曲を徹底的に聞きこんでいたので、この曲も洩れなくヘビーローテーションで繰り返し聞くこととなりました。聞いているうちにこの曲の背景やサウンドのおもしろさ、ダイアナのボーカルの思いもかけない展開などに気づき、いつのまにかこの曲ばかりを繰り返し聞くこともあるほどにすっかり虜になってしまいました・・・とは言っても世の中の皆様すべてにいい曲だと受け取ってもらえるとは思っていないところが評価の微妙な曲というか、自分だけが好きな曲という位置にすぎないのですが。やはり聞き手がダイアナ・ロスの第一声であるシャウトに耐えられるかどうかにかかっていると思います。この頃、実はダイアナはいろいろな曲でシャウトしまくっていまして、このシングルと平行してレコーディングされたテンプテーションズの共演アルバム「Together」ではオープニングからマーヴィン・ゲイの「STUBBORN KIND OF FELLOW」(トヨタのCMのトータス松本バージョンもかっこよかったですね)でシャウトしてはじまると、シングルにもなったバーズの「THE WEIGHT」、スティービー・ワンダーの「UPTIGHT」、スライ&ファミリーストーンの「SING A SINMPLE SONG」とシャウトの大バーゲンセール。このラインナップを見てお気づきかと思いますが、サイケサウンドがフラワームーブメントと合流して大きな流れを作っていた時期、モータウン勢もテンプテーションズがこのブームをうまく取り入れて「CLOUD NINE」を大ヒットにつなげていて、スプリームスもなんとかあやかりたいと挑戦したのがこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」ではなかったかと簡単に想像できます。問題のコーラスの部分はよーくよく聞くと「Capricorn, Scorpio, Taurus, Gemini, Virgo, Cancer, Pisces, Leo, Libra, Aries, Aquarius, Sagittarius」と星座の名前を羅列しているだけなので、星座の名前を聞いただけでハイになってシャウトしまくるダイアナがますます不自然でおもしろすぎます。「星座占いがあなたをどんなひとだと啓示しようと私はなたが本当に大好き」となんてことない歌詞ですが、星座占いというのがそもそもフラワームーブメントの主役であったヒッピー的なアイテムですし、彼らが好んで使う「vibration」と言う言葉を使っているあたりもそういう意識を感じますね。「Don't Destroy Me (私を破壊しないで)」の次には「THE PAPER SAID RAIN」(新聞の天気予報じゃ雨だと言うけれどという歌詞が簡単に想像できます)というタイトルも考えられていたようですので、やはりそのあたりの言葉で歌詞を作ったのはベリー・ゴディー商法のあざとさだと思いますが、残念ながら彼がLSDでハイになりながら書いたのではないでしょうから、ホンマモンとは根本的に似て異なるものにしかなりませんでした。実際、印象に残りすぎるコーラス&シャウトの部分以外は、60年代終わりから70年代にかけてのポストH=D=Hの時期のモータウンのサウンドのテキスト的なオーソドックスさ。ですから、ダイアナ・ロスのキャリアに焦点を当てて考えると、スプリームスからソロシンガーへの橋渡しにしっかりなっている曲で、ソロになってからのシングル「SURRENDER」などのテイストはまさにこの曲の延長線上。馴れないシャウトに違和感があったスプリームスのダイアナの姿は「SURRENDER」にはすでになく、むしろ堂々とこれが私のスタイルよといったシャウトを聞かせてくれていて、この曲と聞き比べることによってこの時期に急速に進化したダイアナのボーカルを感じることができたりするのです。
そしてもうひとつこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」の注目すべき点は、ダイアナのボーカルのレンジの変化。プライメッツ時代から初期のスプリームスの頃でこそ、「ボーイソプラノの少女版」(おかしな言葉ですね)のような甲高い声でフルスロットルの歌声だったダイアナでしたが、最初のビッグヒットとなった「愛はどこへいったの/WHERE DID OUR LOVE GO」でキーを下げてソフトに歌うようになってからは、特にシングルナンバーではミッドレンジのみを使うボーカルスタイルが定着していました。ひとつには自己流のボーカルスタイルだったダイアナをソフィストケートされたシンガーとして聞かせる作戦であり、またフローとメアリーという芸達者なバックアップコーラスがついているので彼女達に任せる部分は任せるのがスプリームスのスタイルとなったこともあるのではないかと思います。しかし、ダイアナのソロ独立が既定路線となり、スプリームスのレコーディングとダイアナのソロのレコーディングが並行して行なわれるようになりだし、時にはダイアナのソロレコーディングのパイロット版と思われるようなナンバーがダイアナ・ロス&ザ・スプリームスの名義でも発表されるようになってくると、そういったスプリームスの見えない約束事になっていた枠を打ち破って新しいスタイルを作ろうと試行錯誤している姿が浮かび上がってきます。この時期、スプリームス用レコーディングであってもバックアップコーラスはフローに変わってメンバーに加わったシンディーとメアリーのふたりではなくアンダンテスが担当していたので、実質ダイアナのソロレコーディングとなっていたのも、ダイアナのボーカルを成長させるために作為的に行なわれたのではないかと疑いたくなります。特にこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」の後半部分ではスプリームスのほかのシングルではみせなかったような高揚したボーカルで上のパートをとっているコーラスのさらに上をアドリブ風に歌ってみせたりしていて、ソロになってからのヒットナンバーを彷彿させたりする展開になているのです。一方でシャウトを含めて、新しいボーカルスタイルやボーカルレンジがまだまだ板につかずダイアナらしい輝きを失っていると感じさせられた部分もあったりするのですが、歴史として振り返るとそういった試行錯誤こそが稀有な才能を持つ新しいエンターテイナーの誕生を予感させ今聴いてもわくわくさせられてしまい、この夏にはまりまくってしまったのだと思います。この曲はスプリームスの曲と思わずに、むしろダイアナのソロナンバーだと思って聞いていただければ、今まで苦手にしていたファンの方にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。
この時期のモータウン物は1990年代以降になって再評価されていることは、「LOVE CHILD」の紹介でも触れましたが、この曲も1990年にベル・ビヴ・デヴォー(ニュー・エディション)が「Ain't Nut'in' Changed」と言う曲のイントロにサンプリングで使っているくらいなので、ファンが自虐的になるほど悪い曲じゃないのかもしれませんよ。
ご参考:アマゾンで一部試聴できますがサンプリングの部分は残念ながらきけません。
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