2005年10月14日

NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE ダイアナ・ロス&ザ・スプリームス

****Web版Everegreenと同時更新です。Web版には欄外コラムも設けてます。***
 これですか?とまたつっこまれそうですが、スプリームスのシングル紹介第2弾。何を隠そうこの夏はまりにはまって繰り返し聞いていたのがこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」(試聴できます。)。「星空のサイン」とかなんとかいう洒落た邦題もあったはずですがいくら探しても邦題があった記録は見つかりませんでした(Suzuさんに「星空のラブ・サイン」だと教えていただきました)。スプリームスファンの中でもあまり知られていないし、知ってはいてもなかったことにしているファンも多いシングルだと思います。私も最初にこの曲を聴いたのはCDの「旧アンソロジー」だったか2in1シリーズであったか忘れましたが、とにかく感想は最悪。モータウンで初期にCD化された音源はマスタリングが悪く音質はアナログ盤以下だったので、この時期にCDで最初に聞いた曲はたいがい印象が悪くなってしまうのです。この曲の場合はそれだけが原因ではありませんでした。スプリームスの楽しくて心地よいヒットナンバーの詰まったベスト盤の流れで聞いていると誰もがこの曲の導入部分で「なんじゃこりゃ」とずっこけるんじゃないんでしょうか。ブルージーなギターではじまったと思ったらいきなりドンガラガッシャーンとサイケ調のコーラスが始まってダイアナ・ロスが「おりゃー!ありゃー!」とシャウトしまくるという、ひとことでいうと「破れかぶれ」な印象の1曲だったからです。この曲が制作開始時、「Don't Destroy Me (私を破壊しないで)」という仮題がついていたのも納得、ダイアナが壊れてる。ダイアナ・ロス&ザ・スプリームスも思うようにヒット曲が続かなくなったのでこんな無茶なことをやったのかなと、聞いた当初は思いましたし、最高位31位と1964年に「愛はどこへ行ったの/WHERE DID OUR LOVE GO」でチャートを制して以来シングルは必ずTOP30に入っていたのに最低を記録したのも当然だろうとファンらしからぬ感想を持ったぐらいでした。その上、コーラスの部分何を歌っているかわからなかったのですが「アクエリアース」というきめの言葉の部分だけ妙にはっきり分かって、それが1967年のビッグヒット「輝く星座/AQUARIOUS」(フィフスディメンションズ)に酷似していてパクリ疑惑を持ったことが追い討ちをかけました。
 そんなこともあって、長らくこの曲は封印されていたわけですが、この夏は前回紹介した「LOVE CHILD」や「スラムの小鳩/I'M LIVIN' IN SHAME」などとともに、1960年代末期のダイアナ・ロス&ザ・スプリームス時代の曲を徹底的に聞きこんでいたので、この曲も洩れなくヘビーローテーションで繰り返し聞くこととなりました。聞いているうちにこの曲の背景やサウンドのおもしろさ、ダイアナのボーカルの思いもかけない展開などに気づき、いつのまにかこの曲ばかりを繰り返し聞くこともあるほどにすっかり虜になってしまいました・・・とは言っても世の中の皆様すべてにいい曲だと受け取ってもらえるとは思っていないところが評価の微妙な曲というか、自分だけが好きな曲という位置にすぎないのですが。やはり聞き手がダイアナ・ロスの第一声であるシャウトに耐えられるかどうかにかかっていると思います。この頃、実はダイアナはいろいろな曲でシャウトしまくっていまして、このシングルと平行してレコーディングされたテンプテーションズの共演アルバム「Together」ではオープニングからマーヴィン・ゲイの「STUBBORN KIND OF FELLOW」(トヨタのCMのトータス松本バージョンもかっこよかったですね)でシャウトしてはじまると、シングルにもなったバーズの「THE WEIGHT」、スティービー・ワンダーの「UPTIGHT」、スライ&ファミリーストーンの「SING A SINMPLE SONG」とシャウトの大バーゲンセール。このラインナップを見てお気づきかと思いますが、サイケサウンドがフラワームーブメントと合流して大きな流れを作っていた時期、モータウン勢もテンプテーションズがこのブームをうまく取り入れて「CLOUD NINE」を大ヒットにつなげていて、スプリームスもなんとかあやかりたいと挑戦したのがこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」ではなかったかと簡単に想像できます。問題のコーラスの部分はよーくよく聞くと「Capricorn, Scorpio, Taurus, Gemini, Virgo, Cancer, Pisces, Leo, Libra, Aries, Aquarius, Sagittarius」と星座の名前を羅列しているだけなので、星座の名前を聞いただけでハイになってシャウトしまくるダイアナがますます不自然でおもしろすぎます。「星座占いがあなたをどんなひとだと啓示しようと私はなたが本当に大好き」となんてことない歌詞ですが、星座占いというのがそもそもフラワームーブメントの主役であったヒッピー的なアイテムですし、彼らが好んで使う「vibration」と言う言葉を使っているあたりもそういう意識を感じますね。「Don't Destroy Me (私を破壊しないで)」の次には「THE PAPER SAID RAIN」(新聞の天気予報じゃ雨だと言うけれどという歌詞が簡単に想像できます)というタイトルも考えられていたようですので、やはりそのあたりの言葉で歌詞を作ったのはベリー・ゴディー商法のあざとさだと思いますが、残念ながら彼がLSDでハイになりながら書いたのではないでしょうから、ホンマモンとは根本的に似て異なるものにしかなりませんでした。実際、印象に残りすぎるコーラス&シャウトの部分以外は、60年代終わりから70年代にかけてのポストH=D=Hの時期のモータウンのサウンドのテキスト的なオーソドックスさ。ですから、ダイアナ・ロスのキャリアに焦点を当てて考えると、スプリームスからソロシンガーへの橋渡しにしっかりなっている曲で、ソロになってからのシングル「SURRENDER」などのテイストはまさにこの曲の延長線上。馴れないシャウトに違和感があったスプリームスのダイアナの姿は「SURRENDER」にはすでになく、むしろ堂々とこれが私のスタイルよといったシャウトを聞かせてくれていて、この曲と聞き比べることによってこの時期に急速に進化したダイアナのボーカルを感じることができたりするのです。
 そしてもうひとつこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」の注目すべき点は、ダイアナのボーカルのレンジの変化。プライメッツ時代から初期のスプリームスの頃でこそ、「ボーイソプラノの少女版」(おかしな言葉ですね)のような甲高い声でフルスロットルの歌声だったダイアナでしたが、最初のビッグヒットとなった「愛はどこへいったの/WHERE DID OUR LOVE GO」でキーを下げてソフトに歌うようになってからは、特にシングルナンバーではミッドレンジのみを使うボーカルスタイルが定着していました。ひとつには自己流のボーカルスタイルだったダイアナをソフィストケートされたシンガーとして聞かせる作戦であり、またフローとメアリーという芸達者なバックアップコーラスがついているので彼女達に任せる部分は任せるのがスプリームスのスタイルとなったこともあるのではないかと思います。しかし、ダイアナのソロ独立が既定路線となり、スプリームスのレコーディングとダイアナのソロのレコーディングが並行して行なわれるようになりだし、時にはダイアナのソロレコーディングのパイロット版と思われるようなナンバーがダイアナ・ロス&ザ・スプリームスの名義でも発表されるようになってくると、そういったスプリームスの見えない約束事になっていた枠を打ち破って新しいスタイルを作ろうと試行錯誤している姿が浮かび上がってきます。この時期、スプリームス用レコーディングであってもバックアップコーラスはフローに変わってメンバーに加わったシンディーとメアリーのふたりではなくアンダンテスが担当していたので、実質ダイアナのソロレコーディングとなっていたのも、ダイアナのボーカルを成長させるために作為的に行なわれたのではないかと疑いたくなります。特にこの「NO MATTER WHAT SIGN YOU ARE」の後半部分ではスプリームスのほかのシングルではみせなかったような高揚したボーカルで上のパートをとっているコーラスのさらに上をアドリブ風に歌ってみせたりしていて、ソロになってからのヒットナンバーを彷彿させたりする展開になているのです。一方でシャウトを含めて、新しいボーカルスタイルやボーカルレンジがまだまだ板につかずダイアナらしい輝きを失っていると感じさせられた部分もあったりするのですが、歴史として振り返るとそういった試行錯誤こそが稀有な才能を持つ新しいエンターテイナーの誕生を予感させ今聴いてもわくわくさせられてしまい、この夏にはまりまくってしまったのだと思います。この曲はスプリームスの曲と思わずに、むしろダイアナのソロナンバーだと思って聞いていただければ、今まで苦手にしていたファンの方にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。
 この時期のモータウン物は1990年代以降になって再評価されていることは、「LOVE CHILD」の紹介でも触れましたが、この曲も1990年にベル・ビヴ・デヴォー(ニュー・エディション)が「Ain't Nut'in' Changed」と言う曲のイントロにサンプリングで使っているくらいなので、ファンが自虐的になるほど悪い曲じゃないのかもしれませんよ。

ご参考:アマゾンで一部試聴できますがサンプリングの部分は残念ながらきけません。

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posted by Alex at 06:25| 大阪 ☁| Comment(1) | TrackBack(2) | ダイアナ・ロス | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自分はこの曲大好きです。はじめて聞いた瞬間から、全く飽きない。ロック好きにはうけるのかもしれないですね。
Posted by NS at 2022年05月20日 14:00
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Excerpt: 箱の中にそっとしまっておきたい声。 箱の中に閉じ込めてお嫁さんにしたかった声。 ダイアナロスの声です。 あらら、なんか猟奇的な表現ですね、箱の中って。 すんごく、セクシーでキュートでたまら..
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