2009年12月25日

ダイアナ・ロス「Surrender」(再発盤デラックスエディション)

1年前のリリースですが…
 ユニバーサルやHip-Oからは引き続きモータウン関連の再発盤が積極的にリリースされておりまして、「Diana Ross(1970)」「Everything Is Everything」「To Love Again」「Diana」「Last Time I Saw Him」などに続いての未発表音源を加えたリイシュー版「Surrender(Expanded Edition)」がリリースされたのは昨年12月。すぐに入手はしていたもののこの1年、音楽関連はなかなか落ち着いてレビューを書く機会がなかったので、この年末年始にまとめてそのあたり片付けたいなということで第1弾としてご紹介。

「Surrender」
 アルバム「Surrender」は1971年6月にリリースされたダイアナ・ロスがスプリームス(シュープリームス)独立後、ソロとしては第3弾となるアルバム。大ヒット「Ain't No Moytain High Enough」を含むファーストアルバム「Diana Ross」の続編的な作品で、「Diana Ross」同様に当時はモータウンのハウスソングライターだったニコラス・アッシュフォード&ヴァレリー・シンプソンのプロデュースによる作品。シングル「Remember Me」「Surrender」「Reach Out I'll Be There」を収録しているほか、イギリスでは先にナンバー1ヒットとなった「I'm Still Waiting」(今回のリイシューではボーナストラックとして収録)を収録した形で「I'm Still Waiting」のタイトルでUK盤もリリースされました。
 ファーストアルバムで証明されたダイアナ・ロスとアッシュフォード&シンプソン夫妻との相性の良さはこのアルバムでも随所で発揮されていますが、今回のライナーノーツでも触れられていますがさすがのアッシュフォード&シンプソンもファーストアルバムで書き溜めていた曲のストックを使い果たした感が強く、このアルバムではファースト同様にアッシュフォード&シンプソンがすでに他のアーティストに提供したナンバーのカバーで水増ししているだけではアルバム1枚が作れず、さらにフォートップスの名曲「Reach Out I'll Be There」をマテリアルに加えるなど台所事情の苦しさも見え隠れします。だからと言って決して質が低くなっているわけでなくweb版でも大昔に紹介していますとおり[こちら]、ダイアナらしいあらたな解釈を加えた「Reach Out I'll Be There」は個人的にダイアナのレコーディングの中でも1-2位を争う名レコーディングだと思うほど出色のでき。ヴァレリー・シンプソンはファーストアルバム成功の功労者として同時期にモータウンからソロデビューもさせてもらっていますので、このアルバムでもはりきって手腕を発揮しており、今回のリイシューではそのヴァレリー・シンプソンが制作秘話を語っているのもダイアナファンにとってはうれしいところ(できれば日本の多くのファンに理解できるように国内盤の翻訳でフォローして欲しかったですが国内盤がリリースされる気配ありませんね)。シングルカットされた曲はそれぞれにスマッシュヒットを記録しましたが、残念ながらファーストアルバムほどアルバムはヒットに至りませんでした。ヴァレリー・シンプソンが「R&Bに舵を切りすぎた」とコメントし「『Baby Love』のような軽いタッチの曲がなかったから」と反省しつつも「ダイアナのソリストとしての成長に見合った素材を提供できた」「私達3人の組み合わせは最高なの!」と作品そのものに対する自信のほどはしっかりアピールしています。サウンド的にはモータウンサウンドをベースとして世界が展開されているわけで、時代的にはそろそろフィリーが台頭したり、ソウル系のアーティストも自作自演やメッセージ性が求められる時代に突入しつつありましたから、そういった背景もあって大ヒットに結びつかなかっただけで、こうして振り返って耳を傾ける分には流行に左右される必要もありませんから、今こそ真の評価下せるのではないでしょうか。なによりダイアナの声の艶やかさを聞けば当時の活動の充実ぶりが手に取るように分かると言うもの。大ヒット曲が収録されていないという理由だけでこのアルバムを無視するのはあまりにももったいないですよ!

ボーナストラックも充実
 モータウンのリイシューシリーズでお楽しみとなっているのがヒッツビルUSAスタジオの倉庫に眠っていた膨大な量のマスターテープから掘り起こされた未発表トラック群。今回のボーナストラックは先の「I'm Still Waiting」(初出はセカンドアルバム「Everything Is Everything」への収録)以外が未発表音源。未発表曲は「Surrender」のアルバムセッションで唯一アウトトラックとなった「Baby I'll Come Home」だけですが、「Remember Me」「Surrender」「Reach Out I'll Be There」などシングルカットした曲のボーカル別テイクバージョンが4曲、さらに今回一番のお宝となったのがヴァレリー・シンプソンのデモボーカルによる「Remember Me」。どれも聞き所いっぱいです。前述のライナーノーツは例のアンバサダー氏[こちら]ですが、ヴァレリー・シンプソンが曲ごとにコメントを寄せているのでファン必読ですよ。

Diana Ross「Surrender」(2008年リイシュー盤)
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収録曲
SURRENDER
 ソロ第5弾シングル。ビルボードの最高位は38位、イギリスではTOP10入り。力強いリズムトラックにヴァレリー・シンプソンの教会風ピアノがからんで当時のダイアナとしてはかなりR&Bよりの挑戦作ですが、コール&レスポンスのコーラスやタンバリンがモータウン風で安心させられるのはファン心理でしょうか?ヴァレリーによると故ルーサー・ヴァンドロスのお気に入りだったそうです。

I CAN'T GIVE BACK LOVE I FEEL FOR YOU
 アッシュフォード&シンプソンとH=D=Hの一角ブライアン・ホランドが共作で1967年にシリータがリタ・ライト名義でモータウンからのデビューシングルとして発表済みだったナンバー。1968年にはスプリームス時代のダイアナがレコーディングしながらもお蔵入りし、後に「Let The Music Play」で初出。他にもキキ・ディー、ステファニー・ミルズ(まだ未聴なのでぜひ聞きたい)、ダスティー・スプリングフィールドなどがレコーディングしている隠れ名曲。「AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH」が大ヒット真っ只中の1970年9月レコーディングということでダイアナバージョンは2匹目のどじょうを狙ってモノローグ調ではじまり、最後はほかのどのシンガーのバージョンよりもど派手に盛り上がります。後半に聞かせるダイアナのアドリブをヴァレリーは絶賛。シングルカットできるポテンシャルは十分にありましたね。

REMEMBER ME
 アルバムに先行してリリースされたソロ第3弾シングル「AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH」のようなスケールの大きなヒットナンバーの後のシングルとしてはこじんまり聞こえてしまったのかもしれませんが、こちらも佳曲。「カーニバルはもうすぐ終ってしまうけど、私のことを風変わりなクラウンだと覚えてて」なんて歌詞が泣かせます。ダイアナの声質とアッシュフォード&シンプソンの書き下ろしナンバーとの相性の良さをまたしても証明しています。ビルボード最高位は16位、イギリスでは最高位7位。

AND IF YOU SEE HIM
 当初はマーヴィン・ゲイ用に準備されていたそうで、言われてみればストリングスの使い方などがそんな聞こえ方が。都会的なスピード感に溢れていて、情熱的で甘くやさしい歌声を聞かせることの多いダイアナのクールでかっこいいサイドが聞かれるという意味では貴重かも。

REACH OUT I'LL BE THERE
 私にとってはこの曲がこのアルバムの中でベストトラック。原曲はH=D=Hがフォートップスに歌わせ全米No.1ヒットとなり、彼らのというよりモータウンを代表するといって過言でない名曲。オリジナルのテンポをぐっと落としてモノローグ風にはじまり最後はゴスペル調にコール&レスポンスで盛り上げるというのは「AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH」の手法の流用ではあるのだけど、完成度はむしろこちらのほうが高いのでは?と思うほど。ダイアナのシンガーとしてのスケールの大きさをあらためてかみ締めながら聞いてしまいました。数多くカバーバージョンが存在するナンバーですがオリジナルと独立した世界観を持つのはダイアナバージョンのみ。

DIDN'T YOU KNOW(YOU'D HAVE TO CRY SOMETIME)
 もとはアッシュフォード&シンプソンがダイアナ・ロスを強力にライバル視していたグラディス・ナイト&ザ・ピップスに提供してヒットしたナンバー。ヴァレリーはオリジナルもお気に入りだそうですが、ダイアナ・ロスバージョンはより華やかさが加えられたバージョンでなかなか。ビルボード誌のレビューでは「SURRENDER」「I CAN'T GIVE BACK LOVE I FEEL FOR YOU」とともにシングルカット候補に挙げられていたとか。

A SIMPLE THING LIKE CRY
 思いストリングスからはじまるのでまたまた「AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH」どじょうソングかと思わせながらダイアナが軽くスイングするような歌い方が楽しいナンバー。

DID YOU READ THE MORNING PAPER
 ヴァレリーによればナンシー・ウィルソンの「Guess Who I Saw Today」(オリジナルはミュージカル「New Faces」)にインスパイアされたストーリーがある歌詞が特徴だとか。そのせいかブロードウェイ風ではあるのですが、アッシュフォード&シンプソン得意な大仰なストリングスやコーラスがアルバムをここまで通して聞いてくるとやや食傷気味になってしまうでしょうか。歌詞がもう少し理解できれば違った聞き方ができそうですが。

I'LL SETTLE FOR YOU
 60年代にディオンヌ・ワーウィックが所属していたセプターレコードのCandy & The Kissesが発表しているナンバーで、そのせいもあってかヴァレリーいわく「ラジオ向けのポップなクロスオーバーソング」も頷ける軽やかなナンバー。

I'M A WINNER
 マーサ&ザ・リーブスが先にアルバムの中でレコーディングしていてまさにマーサ・リーブス向けという熱い波を持ったナンバー。ダイアナのバージョンは「NITTY GLITTY」風のリフも付け加えられてより都会的。どちらも大好きなので聞き比べて楽しんでいます。コーラスがまたスウィートインスピレーションズ風なのもにやり。

ALL THE BEFORES
 オリジナル盤ではエンディングを飾ったドラマティックなソウルワルツ。ヴァレリーには「自分達のスタイルじゃないからすっかり忘れてたわ」なんて切り捨てられていますが、とってもチャーミングなバラードだと思います。

ボーナストラック
I'M STILL WAITING
 イギリス公演でははずせない1曲。ダイアナの代表曲扱いで難度かリバイバルヒットしてます。オリジナルはパティ・ラベルと紹介されていたこともありますがそれは同名異曲で誤りでした。イギリスでヒットした経緯はweb版[こちら]ご参照ください。スイートでせつない物語を歌い聞かせするダイアナが素敵。歌い聞かせってジャンルはまさにダイアナの真骨頂ですね。

BABY I'LL COME
 このリイシュー番唯一の完全未発表曲と思いきや、ダイアナバージョンが初出なだけで、オリジナルはサム・クックのマネージャーが売り込んでいたMary Loveという女性シンガーらしいです。ヴァレリーもこのアルバムに書いた曲じゃないことぐらいしか覚えてないようなコメント。

REMEMBER ME
 テレビスペシャル「Diana!」用に録音したバージョンのステレオミックスは初出なのだとか。当時のテレビ番組は直前にテレビ用のバージョンをレコーディングして本番ではリップシンクするものが多かったようです。歌唱力の問題というよりテレビ局側(マイクのラインがめんどくさいとか)の問題だったようですね。カラオケでってのも珍しくて生バンドかリップシンクかどちらか残っている映像を見るとどちらか極端ですよね?

REACH OUT I'LL BE THERE
 ボーカル別テイクバージョン。こちらのほうが早い段階で録音されたものであることが聞き取れ、さすがのダイアナも最初は苦心したんだなということが伝わってきます。

I CAN'T GIVE BACK LOVE I FEEL FOR YOU
 ボーカル別テイク。アルバムバージョンよりさらにセリフ調の部分が拡大されて「AIN'T NO MOUTAIN HIGH ENOUGH」により近い印象に仕上がってます。ダイアナも雰囲気だしてるし。

AIN'T NO MOUTAIN HIGH ENOUGH
 別ボーカルテイク別ミックスということですが、リイシューする際にマスターテープから適当に使われてないボーカルテイクを掘り起こした感じで仮歌に近いパートも多くて、こういうのはあまり表に出さないほうがいいのでは?なんて心配に。今はダウンロード時代で、いちいちこのバージョンはどんなテイクでなんて説明がないから、これが完成バージョンと間違って広まったらファンとしては微妙かも。もちろん、レコーディング過程が分かるという意味では貴重なわけですが。

REMEMBER ME
 こちらも別ボーカルテイク別ミックスですが「AIN'T NO MOUTAIN HIGH ENOUGH」よりは完成度が高いかな。ボーカルそのものは「THE MOTOWN ANTHOLOGY」と同じだそうですが今回はストリングスを足して完璧にしたとの注釈も。

SURRENDER
 当時はモノラルで発表されたシングルバージョンステレオ化した新ミックス。これは違和感なく聞けます。

REMEMBER ME
 今回の目玉、ヴァレリー・シンプソン自身によるデモボーカルバージョン。アーティスト名義のCDに別のボーカリストの仮歌が収録されて聞き比べできるなんて、前代未聞ではありますが。
 実はファンになりだした頃、ソロデビューした当時のダイアナはヴァレリーのデモボーカルをなぞってるだけだったのではなんて勘違いしていた時期もあったのですが…これを聞くとダイアナのインタープリテーションがいかにオリジナルであるかわかりますね。ヴァレリーの歌は歌で素晴らしいのですが。「Diana Ross」のリイシューCDでヴァレリーはダイアナはヴァレリーが仮歌を吹き込んだデモテープを聴きたがらなかったので、ニックがメインでダイアナのボーカルアレンジを手伝ったと書かれていました。また例のアクターズスタジオのインタビューではダイアナは「当時、ヴァレリーのように歌いたかった」とも答えていて、同じ事象であっても両者の見え方が違うっていうのがおもしろく感じました。ヴァレリーのように歌いたくてもヴァレリーの仮歌は聞きたがらなかったダイアナ…プライドが高かったのかな。スプリームス時代のデモテーププはシリータが吹き込んでいたんですよね?シリータの歌はそのせいでダイアナにそっくりに聞こえてかなり損をしてしまったような気がします。

Diana Ross「Surrender」(2008年リイシュー盤)
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posted by Alex at 03:12| 大阪 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | ダイアナ・ロス | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Alexさん、皆さんこんにちは。

いよいよ、2009年も押し詰まって参りました。今年も大変お世話になり、本当にありがとうございました。
また、当方のBBSにお力添えとご厚情をいただいて、感謝申し上げます。
それでは、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

■『DF倶楽部館』岩崎宏美☆ファン交流BBS♪
by:カサノバM
Posted by カサノバM at 2009年12月31日 10:21
カサノバMさん
こんばんは!
あけましておめでとうございます。
今月は早速、岩崎宏美さんのDVDの発売があったりと楽しみな1年になりそうですね。
BBSのほうではなかなかお邪魔できず、みなさまの熱いトークに出遅れたりして申し訳ないなと読むだけになってしまってるときもありますが、カサノバMさんがマイペースで続けてくださることを心から願っております。今年もよろしくお願いします。
Posted by Alex at 2010年01月01日 00:30
あけましておめでとうございます。

本年も相変わりませず、何卒よろしくお願い申し上げます。
2010年は、宏美さんの記念すべき“35th Year”素晴らしい一年になりますよう願っております。
まずはDVDからという事で、楽しみな一年の幕開けとなりそうです♪
Posted by カサノバM at 2010年01月01日 10:07
カサノバMさん
こんばんは!
あっという間にDVD発売日が迫ってますね!
35周年で何か特別な企画はあるのかな?
Posted by Alex at 2010年01月05日 09:12
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