2009年08月01日

ダスティ・スプリングフィールド「For Cafe Apres-midi」

「For Cafe Apres-midi」のテーマで選曲されたコンピレーション
 ダスティ・スプリングフィールドは彼女がお亡くなりになってずいぶんとしてから、ダイアナ・ロスが「Going Back」をカバーしてはじめてCDを購入したぐらいだったのでその魅力に気づくのが本当に遅かった。もちろん80年代のポップヒットとしてペットショップボーイズと共演した「What Have I Done To Deserve This?/とどかぬ想い」はお気に入りのナンバーでしたが、ダスティの残された作品を本気で追いかけだしたころはちょうど90年代にCDでまとめてリリースされた彼女のオリジナルアルバムがどんどんマーケットで在庫切れ&廃盤になっていった時期と重なってしまい、ようやく半分ほど揃ったところでタイムアップ、気がつけばオークションで高値を出さなくてはならないようになって泣く泣くあきらめたアルバムが何枚か残ってしまいました。そんなこともあってオンラインショップでダスティの検索をかけるときはそれらオリジナルアルバムが再プレスされて市場にでてきてないかの確認ばかりになってしまいこんな素敵なコンピレーションが日本の選者によって独自にリリースしてることに気がついておりませんでした。ネットでの検索は便利ですけど、落とし穴にはまっていた思い。このCDは先月、タワレコ詣でをしたときに発見しレジにお連れするところとなりました。
 フリーソウルの提唱者のひとりでもある橋本徹(例の名物知事さんとは一字違いで同音名ですね)さんがフリーソウルに続いて提案した「 For Cafe Apres-midi 」というラインに基づいたコンピレーション。フリーソウル同様に実はよく理解しているわけではないですが、音楽をただCDやレコードとしてコレクションするのではなく、風景の一部として思い出に残そうという橋本氏の趣旨により、午後のコーヒーを楽しむむように味わうトラックを集めた選曲ということになるのでしょうか。解説などにあるスゥインギンロンドンとかモッズという言葉の響きにはこれまでなじみがなかったものの、午後のコーヒーと言われると最初から最後までよどみの無いひとつの流れで自然に耳に入ってくるような気が・・・とおしゃれなカフェではなくここまでは街角のケンタッキーで書いていてなんなのですが。
 前置きが長くなりましたが、このコンピレーションのおいしいのは「二人だけのデート」「Spooky」「Look Of Love」などの代表曲はあくまでもテーマにそったものだけに抑え、ヒットしたかどうか、シングルカットされたかどうかに関係なく長いキャリアを幅広く押さえた構成になっているところ。ですから現在は入手困難盤となっているオリジナルアルバムからの選曲も多く、今や、このCDでしか聞けないというものが少なくないところがダスティファンとしてはうれしい。個人的にも多くの人に聞いてもらいたい、紹介したいと思いながらも入手困難盤の曲ではそれもかなわなかったところが、これで正々堂々とご紹介できるのがうれしくてなりません。偉そうなこと書きつつも持っているアルバムからの出典であってもあらためて良さを知ることになったナンバーも数知れず。

ダスティ・スプリングフィールド・フォー・カフェ・アプレミディDusty springfield 「For Cafe Apres-midi」
Amazon/試聴あり HMV/試聴ありicon


おすすめ曲
 全28曲もあるのでいつものペースで調子になってるととんでもないことになるので特にこれ!という曲だけ。
「Don't Let Me The Lose This Dream」
 なんて軽快なアレサ・フランクリンなんでしょう!アルバム「Where Am I Going」からですが、CD持ってたのに魅力にきづいてなかったな。Duffy好きな方は次に聞くのはダスティでしょ! [YouTube]
「I Can't Wait Until I see My Baby's Face」
 なにこれ、こんな良い曲、同じく「Where Am I Going」に収録されてましたっけ?私の耳はフシ穴ですか。ジェリー・ラゴヴォイがらみの作品だそうで、この後にディオンヌの隠れ名曲「Move Me No Mountains」だ続くわけですね。納得。
「Am I The Same Girl」
 スウィングアウトシスターズバージョンでお馴染み。これまた夢見心地なトラックが続きます。あ、このままじゃ全曲紹介とかわらない。
「Come Back To Me」
 ブロードウェイナンバーとあって納得、スプリームスがコパカバーナでパフォりそうな雰囲気。ビッグバンドが大活躍。[YouTube]
「Meditation」
 これまたビッグバンドが軽快にサンバするダンスホール風。この曲も「Come Back To Me」と同じ「From Dusty with Love」から。この大人の解放感は、ベリー・ゴディがどんなに鞭打っても(鞭打たれてるからかもしれませんが)ダイアナに出すのは無理だな。
「Another Night」
 ディオンヌバージョンも大大大好きなバカラックナンバー、ボサノバ風味のポップチューンが続くこの流れに脱帽。
「I'll Try Anything」
 ガールズグループの王道をいくポップチューンをあえてウォールサウンドではなくモータウン調に味付けして大正解。HDHがマーサ&ザ・ヴァンデラスのアルバム「Heat Wave」で挑戦して完成し切れなかった領域です。シングルカットされたのが1967年よりもう数年、早ければとそこが惜しまれます。イギリスで13位、アメリカで40位。[YouTube]
「The Look Of Love」
 宿願かなって初めて得たバカラックの書き下ろしナンバー。収録されたサントラは所属レコード会社と違う発売元だったために、別にレコーディングしなしたシングルバージョン。ディオンヌも持ち歌にしていますが、ディオンヌは歌うとき、ダスティを偲んでいるような、コンサートのときそんな気持ちになりました。[YouTube]
「Spooky」
 日本でのダスティ再評価のきっかけとなった1曲。自動車のCMに使われ大変話題になりました。当時はシングルのB面だったんですね。このトラックを引き出してきた人がすごい![YouTube]
「Son Of A Preacher Man」
 リアルでプリーチャーマンの娘であるアレサがゴネって当初歌うことを拒否したために、ジェリー・ウィクスラーがダスティにまわしたわけですがダスティのレコーディングを聞いてメラメラとライバル心を燃やしたアレサも結局レコーディングした因縁のナンバー。あてうまとは呼ばせない、アレサとはまったく違った持ち味で歌にソウルを吹き込んだダスティはさすが。[YouTube]
「Magic Garden」
 ジミー・ウェッブのぶっとびトラックをここでは意外にまじめに歌ってるダスティ。「If You Go Away」からシングルカットの予定がキャンセルになったのだとか。ジミー・ウェッブのコンピレーションにはフィフスディメンションズのオリジナルではなくてこちらが収録されてました。おぼろげな記憶ですが、そのバージョンとちょっとちがうような(エンディングが・・・)後で確認します。
「Close To You」
 これはバカラックでカーペンターズのバージョンが有名すぎます。ダスティのバージョンはThe Dellsほどではないですがそれでも挑戦的で過激なアレンジが好みです!
「I Just Wanna Be There」
 「Ain't No Mountain Enough」のライター&プロデューサーとしておなじみアッシュフォード&シンプソンの曲でこれはダイアナにはあげずにヴァレリー・シンプソンのソロアルバムにキープされたとっておきたいとっておきのナンバー。後半が見事にノーザンソウルに盛り上がります。
「Mixd Up Girl」
 これはもう別次元で個人的に思い入れのある曲。某所でもし自分がアメリカンアイドルに出るならって毎度ばかばかしいお話をふったことがあるのですが、ステージ審査がはじまったら一発目はこれって決めております(はいはい、制限年齢ははるかにオーバーしてますし、予選を勝ち上がる力もございませんよーだ)。作曲したジミー・ウェッブが前面バックアップのテルマ・ヒューストン「Sunshower」で聞いてすっかりはまり、ナンシー・ウィルソンバージョンはジミー・ウェッブ作品集で拾いました。この曲目当てで早くにゲットしたのでダスティの「See All Her Faces」も入手困難になる前に手にすることができました。ナンシーやテルマはいいこちゃんなかんじで正統派の歌いっぷりなのに、ダスティのはマリファナでまるでいっちゃってるかのようダイアナがビリー演じたときのような呂律がよく回ってない感じまでだしての高揚感あふれる歌唱。歌い始める前の吐息のような声もiPodで持ち歩いて聞いてみて今回はじめてきづきました。そう思ってみると、このぼこぼこ強烈なビートを刻むボンゴのビートは早すぎたトランス系なのかと妙に納得。そんな聞き方をお洒落なカフェでしちゃいけませんね。この曲、アレサもレパートリーにしてたのは例のライブ完全盤で知りました。
「Live Here With You」
 ここからラスト3曲は幻のNYセッションから、世紀末ぎりぎりでリリースされた4枚組BOX「Simply Dusty」で掘り起こされたトラック。お値段張るので躊躇してたんですが、近いうちにAmazonでぽちりそう。71年ですから女流シンガーソングライターの台頭に呼応するような清々しくフォーキーな見たことの無いダスティがここにはいます。
「You've Got A Friend」
 ラストを飾るのはご紹介するまでも無いキャロル・キングの今や大スタンダード。この曲もご本人バージョンはもちろんいろいろなカバーを聞いたし、風のうわさで今年、岩崎宏美がツアーのセットリストにも入れていると聞きましたが、正直、何が良いのかわかってなかった。でもダスティの歌声で見事に開眼。あーこんなことを歌ってたのかと今さらですがしみじみしてしまいました。

 本当に穴がない選曲でこれでも無理やり絞ってご紹介したわけですが、聞いていてスキップしようと思うトラックがない!ダスティがそれだけ内容の濃い作品群を残していた証でもありますが、まいった!と唸らされました。これまでに気づけなかったダスティのいろいろな表情も発見できて大満足、2000円は完全に元が取れました!

元祖スーパーウーマン、ダスティ
 こうしてあらためてダスティ・スプリングフィールドという稀有な存在感を持つシンガー/アーティストを振り返る機会を得てみると、彼女があの時代に大西洋を行き来しながらイギリスとアメリカの両方でレコーディングを行っていたという事実を過小評価するわけにはいきません。まだアメリカの漆黒のディーバ達が自由公民権運動が高まりつつあった60年代であっても、女であり、黒人であるという二重苦を背負った中で、先輩たちがビッグバンドのお飾りとして活躍の場を得てきたのと基本的な構図はかわらず、強力なプロデューサーの支配下で活動するという縛りからは逃れられなかった時代、天才少女と早くから注目を集めたアレサですら白人資本に飼い殺しされていたことを考えると(コロンビア時代はそれはそれで素敵な作品が残っているわけですが)、自分自身でどの曲をどのプロデューサーとどこでレコーディングするかを決め、大西洋をまたにかけて世界中を飛び回っていたなんて、まさにスーパーウーマン、自立した女性像がはっきりと浮かんできます。そして、彼女はイギリス人だったために、人種の壁というものを意識せずにいろいろなアーティスト達と接していたことも見逃せない事実。アメリカでディオンヌの歌声がラジオから流れてきたときに「こんな風に歌えるようになりたい!」と思えばバカラックにアプローチし、DJ主催のコンサートでモータウンレヴューご一同様と出会うとその魅力に気づき、すぐにイギリスにとんぼ返りして、イギリスのテレビとの橋渡しになり、モータウンご一同様を渡英させてしまうなんてアーティストを超越してまるでプロデューサーのような仕事っぷり、さらにマーサ・リーブスとブラジル旅行して世間を騒がせたり(当時、表向きはマーサの兄とのアバンチュールと報道されましたが、それでもセレブのインターレーシャルな恋愛はまだまだタブーとされていた時代でした)、もちろん自らのレコーディング作品においてもアレサに刺激をうけ、メンフィスでジェリー・ウィクスラーの指揮のもとマッスルショールズチームと歴史的レコーディングを残したり、いち早くフィアデルフィア詣でをしたりといたっと随所に反映されています。そんなダスティの残した作品に触れ、人物像に思いをはせればはせるほど、前述の「とどかぬ想い」がヒットしたときにボーイ・ジョージが「ペット・ショップ・ボーイズはずるい。自分だって・・・」と嫉妬をにじませるコメントした本当の意味がじんわりしみてくる夏の夜でございました。
 唯一残念なのが、もしこのコンピレーションでダスティを好きになって次を探そうとしてもオリジナルアルバムはほとんど入手困難であること、特に核となるべくフィリップス時代がほぼ全滅なのが残念でなりません。現在の紙ジャケットブームをうまく使って、シリーズで全部復刻されないかな?あ、そうなるとこちらも財布と相談しなきゃいけないので大変なわけですが。そんな中輸入盤で入手できる「Dusty In Memphis」は当然として「Where Am I Going」が国内盤のカタログに生き残ってるのは橋本氏の尽力のおかげ。

関連アイテムご紹介
深みに入りたいかたはこちらをどうぞ!

I Can't Wait Until I See My Baby's Face」「Don't Let Me Lose This Dream」「Sunny」「Come Back To Me」など橋本徹お奨めのナンバーを収録。ボーナストラック満載でこちらもボリューム感がたまりません。
ホエア・アム・アイ・ゴーイングDusty Springfield「」
Amazon/試聴あり HMV/試聴ありicon Dusty Springfield - Where Am I Going


わざわざアメリカで契約をアトランティックに移してまでアレサをバックアップしたチームとのレコーディングを実現させた歴史的録音盤。こちらもボートラ満載。
Dusty in MemphisDusty Springfield「In Memphis」
Amazon HMV/試聴ありicon HMVicon Dusty Springfield - Dusty in Memphis


よい子の合言葉は「イクときは一緒よ!」ってことで、すでに買われた方、買うのを決心した方、ご一報ください。私も続きますので。
Simply DustyDusty Springfield「Simply Dusty」
Amazon


ディスコディーバなんかじゃない!一発屋なんかじゃない!歌えるシンガー、テルマ・ヒューストンのはちきれんばかりそうな魅力をジミー・ウェッブが名プロデュース。「Mixed Up Girl」収録。
SunshowerThelma Houston「Sunshower」
Amazon HMVicon


ダスティの「Magic Garden」、ナンシー・ウィルソンの「Mixed Up Girl」が関連曲ですが大ヒットではフィフスディメンションズやアートガファンクル、そしてドナのヒットで有名な「マッカーサーパーク」のオリジナルバージョン、フォートップス、スプリームスのモータウン勢にディオンヌ・ワーウィックにスリーディグリーズ、みんなジミー・ウェッブ歌っているんですね。僕らの時代のジミー・ウェッブ歌いといえばもちろんリンダ・ロンシュタットも収録。
Tunesmith: The Songs of Jimmy Webb「Tunesmith -Songs Of Jimmy Webb」
Amazon HMV/試聴ありicon


傑作ライブ盤にはDay2があった!完全盤で明らかになった2日目に「Mixed Up Girl」をパフォーマンス。実は手が回ってないので、アレサがどう料理したか…早く聞いてみたいです。
アレサ・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト(デラックス・エディション)Aretha Franklin「Live At Fillmore West」
Amazon/試聴あり HMVicon


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posted by Alex at 03:56| 大阪 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | evergreen (女性ボーカル) | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おはようございます。

いつものようにAlexさんのお薦めで開眼、これまたいつものようにすぐさま怒涛の買いに走ったので、お陰様でオリジナル・アルバムは基本全て揃えることが出来ましたです。最近は本当にCDの販売サイクルが短いので、これ!と思ったものは即効手を打たないとダメですよね。それでも近頃は、思いを馳せて気長にその時を待つってのも楽しみがあっていいなぁと思えるようになりましたが(年とったんですね…)。

4枚組BOXはその前に3枚組のベストを買ってしまったので躊躇してましたが、そうこうしているうちにCDショップでもすっかり見かけなくなり…。決心がついたらお知らせします(smile)。
ダスティーの陰影が深くて涼しげな歌声は、この暑い季節の室温を2〜3℃下げてくれる効果もありますよね。こういうカフェ的な選曲が成り立つのも、洒落た雰囲気とセンスの良さがあってこそですもの。
久しぶりに私もダスティー、聞いてみようかなと思います。
Posted by Suzu at 2009年08月01日 08:02
Suzuさん
おはようございます!
懐かしいですね。いつもSuzuさんに全力で抜き去られるAlexです。そんなに高いお値段のアイテムではなかったので、あれは勢いで買っておくべきだったと後悔先たたずです。
エントリーには反映してませんがiTunesだとちゃんと買えるんですよね。やっぱりCDで持っていたいところですが、再発が無理とあきらめたときにはそちらでお世話になろうかと。
今回、YouTubeでも動画を追いかけたら、音で聞いてもかっこいいけど絵で見てもこの人かっこよすぎる!絶対日本では受けないタイプなのにCMソングという切り口で再評価されたのは素敵なことだなとあらためて思います。
Posted by Alex at 2009年08月01日 08:29
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