2009年07月21日

マイケル・ジョンズ「Hold Back My Heart」を聞いて

ブルージーな響きが心地いい再デビューアルバム
 アメリカンアイドルS7では実力者として期待されながらTOP8と思わぬ下位で敗退してしまったマイケル・ジョンズ。今シーズン評判の悪かった新ルール、ジャッジズセーブもこのような悲劇を繰り返さないためにと引き合いに出されるほど視聴者にとっても制作サイドにとっても衝撃を残しました。そんなマイケル・ジョンズのニューアルバム「Heart Is Weak」がリリースされたのは先月。かつてはThe Risingというバンドを率いてあのマドンナが主宰していたマーヴェリックからアルバムをリリースしたという華やかな経歴の持ち主ですから、これが再デビューアルバムとなります。秋には国内盤がリリースされるとソニーのサイトで告知されていましたので、ボーナストラックなども期待して、それまで待つつもりですが、先月末にタワレコ詣でをしたときに現物を見てしまうと我慢できずにレジで「ピ!」しちゃいました。
 アメリカンアイドルでのマイケル・ジョンズはスポーツで鍛えられた体に甘いマスク、さらにメージャーデビューを経験した経歴と自身の実力への信頼から自信に溢れ、そして昼は近所の奥様憧れのテニスコーチ、夜はローカルサーキットで演奏するミュージシャンという顔を持つ男性なら誰もが憧れずにはいられないような生活から抜け出してきた、男の王道を歩くような存在でした。コンペでもロック志向ながらも骨太なアメリカンロックではなく、クィーンのナンバーを得意としてみたり、また同郷の英雄マイケル・ハッチェンスを髣髴させるような「華麗な」ステージングで観客を沸かせました。男としての嫉妬からかもしれませんが、今の音楽シーンへ再出航するにはこの路線ではセールスを稼げるマーケットはアメリカンアイドルで掴んだ固定ファン以外にないのではと心配したものです。
 それがデビューシングルは精細さを前面に出した「Heart On My Sleeve」できたので驚かされました。「自信満々に見える俺だけのこんなナイーブ面もあるんだよ」なんてアピールされちゃ、アメリカンアイドル放送期間中から応援してきたファンにはたまらないのではないでしょうか?私はそれでもまだまだ嫉妬は拭えず「どうせなら(作曲者である)ジェイムス・モリソンの歌で聞きたかった」なんて斜めな聞き方をしておりましたが、さらに畳み掛けるようにアルバムが「Hold Back My Heart」(本当の自分の気持ちは隠しているんだよ)で、「Heart On My Sleeve」をピアノの前で歌っている姿を可視化したようなジャケットカバーで戦略のうまさに関心させられて興味を持ちました。これでダイアン・ウォーレンの書き下ろしバラードが「Heart Is Weak」(ハートが弱点なんだ)とくるのですから、アルバムのコンセプトにストーリーがあって、マイケル・ジョンズをどう売り出していくのかきちっとした戦略があるのだと思えたからです。リードシングルこそピアノをメインに据えたポップな音作りですが、ほかのナンバーはバンドを固定して、予想以上に泥臭いブルージーで骨太なサウンドになっていて、それがどこか懐かしく心地よく響きいつのまにか音楽プレイヤーのプレイリストの上位に彼の曲が並ぶようになっていました。実はアメリカンアイドルではジャッジから「もっとブルージーな音でソウルフルな声を生かせ」といったアドバイスをよく受けていて、路線修正がうまくいかないうちに脱落してしまったわけですが、そういった番組中のアドバイスやデビューにあたって周囲の声をしっかり聞いて制作されたということなのではないでしょうか?
 ただし、今はマーケットが大変厳しい時期ですし、アメリカでの発売第1週の初動は9000コピーの売り上げと健闘はしたものの、同じイニシャルを持つ偉大なMJの死を前にニュースとしては完全に吹き飛ばされてしまい大きなインパクトを残すことができなかったように思います。今後は全米をまわるライブ活動など地道なプロモーションと、エリオット・ヤミンのように日本でのデビュー成功で話題作りをしていく方針だと思いますが、実力はありますし、音楽的方向性は個人的に好みですのでがんばってほしいですね。

Hold Back My HeartMichael Johns「Hold Back My Heart」
Amazon HMVicon Michael Johns


Heart On My Sleeve
 前述のとおりイギリスの人気シンガーソングライター、ジェイムス・モリソン書き下ろしのリードシングル。泣き所をしっかり押さえたよくできたポップバラードでインディーズからのリリースながらACチャートに入るなど健闘。この1曲だけ聞いたときは、こういった甘口のポップ路線のナンバーばかりだとアルバムは期待できないなと不安にさせられたものですが、アルバムのトップナンバーとして聞くと、この後続く世界へのうまい誘い水になっていていいなと楽しめるようになりました。

To Love Somebody
 2曲目からなかなかディスカスティングなカバー。ビージーズのキラ星のごとくあるヒット曲の中でもスタンダードの風格がある大名曲。曲が優れているだけではなく、ビージーズのレコーディングバージョンは神憑り的な歴史的レコーディングだと私は思っていますので、ギグなどでカバーするのならともかく、レコーディングバージョンを発表して結果を出すにはかなりハードルが高いと思います。そんな中ではジャニス・ジョップリンやニーナ・シモンが男性バージョンを女性バージョンにインタープリテーションすることで、直接比較を避け、女性ならではの世界観による名カバーを残すことに成功していると思います。マイケルのバージョンはバックの音も含めてビージーズのコピーといった印象。もちろんキーは違いますし、あちらはファルセットとコーラスワークを生かしてということではありますが、マイケルの悪い癖なんでしょうか?器用なだけにブリージングなど含めて歌いまわし方を簡単に真似できちゃうんですよね。それはアメリカンアイドルのコンペでクィーンやドアーズやジム・カーをやったときも同じでした。だから悪いってわけではなく、もともとはオーティス・レディングのためにバリー・ギブが用意し(飛行機事故で急逝したためにレコーディングはされず)、サザンソルからのポップアプローチという使命を帯びたナンバーということを考えると1曲目のポップナンバーから3曲目以降のブルージーなサウンドへとつなぐ架け橋としてはこれ以上のナンバーはないのかも。私は曲が好きなので、「物真似」であっても楽しく聞けますが、オリジナルに入れ込んでる人はだめかも、そんなところです。

Feeling Alright
 テイラー・ヒックスのアルバムを聞いていたかと勘違いするほど景気のいいロックンソウルなナンバー。ブルージーなオルガンの音色にペダルを多用したギター、メンフィス行く前にモータウンを経由してみましたといった感じでしょうか?イギリスのパブで歌うブルーアイドシンガーが好みそうな世界、これは嫌いじゃない!このアルバムって、考えてもみなかったけどロッド・スチュアートとかポール・キャラック好きな人におすすめなのかも。

Littek Bear
 ここでやっとマイケル・ジョンズ自身のペンによるナンバーが登場。彼女のことを「小さな熊さん」なんて呼んだら日本だとはったおされちゃうかもしれませんが、むこうでは熊さんは森の熊さんではなくテディ・ベアのイメージなのかな?マイケルのオージーらしいおおらかさと、人を喰ったようなユニークなキャラクターが発揮されていて、自分としてはナイーブ路線よりこちらのほうが彼のイメージ。超大物参加のバックコーラスもさえまくりです。

Fools Gold
 実はこのアルバム、手にしてすぐはとっかかりがつかめずに1週間ぐらい放置してたかな。タワレコ詣でしたときにこれでもかといろいろなCDを買ってしまってたこともあったのですが。この曲きっかけでアルバムの聴き方がかわりました。ある日、iPodに吸い上げた曲全体をシャッフルモードで聞いていたときにこの曲が流れて聞いて、耳が音に吸い付くっていうのでしょうか。誰の歌声かもわからず、あわててチェックしたらマイケル・ジョンズだったわけです。バラードなんですけどこれでもかというぐらいブルージーな展開で「Feeling Alright」とこの「Fools Gold」をカップリングでシングルにしたい!と今では思うぐらい入れ込んでおります。5分以上続く大作なんですけど、何展開もあるので最後まで聞き飽きさせません。ここでも超大物コーラスがこれでもかとがんばっちゃいますが…超大物って誰か想像つきます?クレジット見てぶっとびましたが、なんとマキシーン・ウォーターズとジュリア・ウォーターズなんですよ(ごめんなさいひとりで盛り上がってしまいました)!彼女達って日本で言えばEVEみたいな存在でしょうか、ジャズ、ブルース、ソウル、ロック、ポップ…あらゆるジャンルの人気シンガーのレコーディングに参加しているセッションシンガー([こちら]をご参照/クレジットされてないものも含めればこんな数で収まらないと思います)で、個人的に印象的なのはなんといってもダイアナ・ロス&ザ・スプリームス名義のラストシングル「またいつの日にか/Someday We'll Be Together」でスプリームスが歌っているように思われているバックコーラス部分が彼女達の歌声だったりするのです。そんな彼女達がどの曲でもゴスペルタッチのコーラスを聞かせるところがアルバム全体のいい触媒になっていると思います。

Mountains
 どこか懐かしいブルージーなロックナンバーが並んでいるということで、「既聴感(デジャブ)」なナンバーが多いのですが、この曲はテンプスの「Papa Was A Rolling Stone」であることを隠してませんね(苦笑)。パクリではなくリスペクトなのでそれもまた良しでしょう。イントロのスピード感が素晴らしく、そこから一気に盛り上がるのがたまりません。

Fire
 続いてはアレサの「Think」です。これまたイントロからリスペクトしてることを隠しておりません(爆)。「フリーダム!」ってとこを「ファーイヤ!」て替え歌してるだけなんですから。作曲者としてマイケルのクレジットはないのでご安心を(なぜに?)。ええ、もちろん嫌いじゃないです。いよいよマイケルのボーカルも絶好調といったかんじ。

Hold Back My Heart
 替え歌2連発で盛り上がりすぎた後、あわてて「あ、俺、ナイーブ路線で売り出すんだっけ」ってことを思い出して慌てて軌道修正。タイトルトラックではありますが同じバラードなら「Fools Gold」のほうが好きかな?ナルナル路線のマイケルが好きなファン向け。

This Is Goodbye
 王道のブルージーなロックンバラード。後半の演奏の盛り上がりとかは聞きどころはあるのですが、自分は替え歌盛り上がり路線のほうが(そんな路線はないか)好き。

It's Too Late
 「Heart On My Sleeve」に通じるポップなメロディーのナンバーですが音が泥臭く響くので違った趣で聞けます。

Heart Is Weak
 話題のダイアン・ウォーレンの書き下ろしバラード。「This Is Goodbye」に比べると商業色の強いロッカバラードではありますが、音がほかのナンバーと統一感があるので悪目立ちはしておりません(ほめ言葉です)。少々、夏に聞くには暑苦しいかな?
 実はクレジットを読むと面白いことが書いてあって、このアルバムにノータッチなはずのデヴィッド・フォスターに対して「アドバイスをしてくれてありがとう!」って家族や参加したミュージシャン、アメリカンアイドルの関係者の次という高い順位で謝辞を述べてるんですよね。フォスターがプロデューサーだったらこの曲もまた違った色付けになってたんだろうな。

Turn To You
 ラストを飾るのはマイケルのペンによるバラード。ギターの弦が力強く響いたり、やさしく響いたりしながら、「またアルバムを聞き返したいな」という気持ちにさせる良いエンディングを迎えます。

 さくさくっと曲紹介はメモ程度ですますつもりが、書き出すと長文になる悪癖がでてしまいました。軟弱男っぽいアルバムカバーとか「エリオットの後継者」といった店内ポップの紹介分とはかなり違った内容…だと個人的には思ったのですが、みなさまはどんなことを感じながら聞かれましたでしょうか?

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この記事へのコメント
実力者マイケル・ジョンズの新譜コメントは
売らんかななコメントが並ぶプロのレビューよりずーーーーーっと楽しめました。
私自身はもう少しダークでいやらしく異端な(よく言えば)感じが遺伝子の叫ぶ好みなので、あまり気にとめていなかったのですが、ALEXさんのレビューを読んでCDショップに行きかけましたwww

でも余談ですが、一番ショックを受けたのは、、、
ALEXさん男性だったんですね!?
ALEXさんってお名前は男女あるし、コメントでの鋭い観察眼やモノの多面的でセンシティブな見方から、知らず知らず絶対女性だと決めつけていました。

男性的な観点は往々にして表面的でかゆい所に手が届いていない気がして、概ね賛同できない私の脳細胞には衝撃が走りました。(なんて奇妙な表現でしょうか?自分の表現力のなさに笑いがこみ上げてきました)
今日は一日楽しく過ごせそうです。
ALEXさんも良い一日をお過ごしください。
(勝手に驚いて、勝手にオチなくまとめてすみませんwww)
らっきょ
Posted by らっきょ at 2009年07月25日 16:38
らっきょさん
こんばんは!
ブログはじめたころよくそのトラブルありました(ALEXさん男性だったんですね!?)。それからなるべく、男でしかもええ年したおっさんであることをエントリー内でアピールするようにしてトラブルなくなってたんですけど、最近また安心して書いてなかったかな(爆)。男とばれてしまいましたがこれからもよろしくです。

アーチュレッタやクックのように全方位的なアルバムでないので、みなさんに「これええよ!」とは紹介しにくいのですが、アメリカンアイドルで歌ってところとはいい意味で裏切りのある作品だなと思いました。メリンダとかテイラーと並べて聞きたくなるラインできたってのが一番のおもしろさでしょうか。

Posted by Alex at 2009年07月25日 23:11
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