2006年01月01日

荒川静香/安藤美姫 トリノオリンピックへ向けてプログラム変更!? 大きな賭け その3

「荒川静香/安藤美姫 トリノオリンピックへ向けてプログラム変更!? 大きな賭け その1」
「荒川静香/安藤美姫 トリノオリンピックへ向けてプログラム変更!? 大きな賭け その2」
からの続きになります。
安藤美姫選手のフリーは「蝶々夫人」に?
ニュースソースはこち「安藤美姫がフリー曲変更…「蝶々夫人」が最有力」
 フリー変更の可能性がすでに報道されていた安藤美姫選手ですが、フリーのプロフラムはプッチーニのオペラ「蝶々夫人」で基本的な振り付けは終了してるようです。オリンピックの会場はトリノですから、今シーズン始まる前はもっと多くの選手がプッチーニやベルディなどを選曲してくるのではという予想もありましたが、意外に少なかったので、後だしじゃんけんみたいですが、この時点でこれをもってくるのはベストかも。ゆったりしていながら盛り上がりも期待できる、オペラのストーリーもポピュラーですから表現が観客に伝わりやすいのも今の安藤選手には助けになる可能性が高いです。ただ、ジャッジが昨年の荒川静香選手のSPでの「蝶々夫人」がイメージに残ってるとあれを越えるのは厳しいかもしれませんね。いずれにしても、オリンピックまでは短期間ですし、しっかり滑り込んでいい演技を披露してほしいです。彼女は昨シーズンもフリーが仕上がらなくて、全日本の後にフリーをその1年前のシーズンの「火の鳥」に戻して世界選手権に出場しましたが、やはりシーズンを通して滑り込んだほかの選手の演技にくらべると付け焼刃感がぬぐえず、表現も上っ面だけを取り繕った感じで、プログラム変更が決していい方向へ出たとは思えなかっただけに、ぜひその反省を生かして、曲変更が「言い訳」になってしまわないようにがんばって欲しいです。
オリンピックシーズンのプログラム変更 伊藤みどり選手の場合
 日本女子オリンピック代表3人のうち安藤選手と荒川選手の2人にプログラム変更の可能性があるわけですが、過去にオリンピックシーズン途中にプログラムを変更した選手の例を思いつく限りで。前回のオリンピックで本田武史選手がプログラムを過去のものに戻して比較的うまくいった例はすでに上げていますが、私が真っ先に思い浮かんだのは1992年のアルベールビルオリンピックシーズンの伊藤みどりさんです。
 実は伊藤みどりさんは1991年の世界選手権でとんでもないアクシデントに見舞われたために、オリンピックシーズンどんな状態でスタートするのかさえ心配されたシーズンでした。1991年の世界選手権では試合直前のウォームアップでフランスの選手に激突され、痛さのあまり氷に伏せたまま立てないほどのダメージを受けましたが、翌年のオリンピックの出場枠がかかっていたことから、責任を背負って強行出場、試合では今度はジャンプの勢いをコントロールできず、テレビカメラのためにフェンスがない部分から飛び出して転倒してしまうというアクシデントが重なります。すぐに氷に戻ってきて演技を再開しましたがそのSPは3位、翌日、痛みのため一睡もできずに出場したフリーではさらに4位に後退し、2年連続で立っていた世界選手権の表彰台から滑り落ちてしまいます。この試合の後、このままでは伊藤選手がスケートをやる気力を失うと危惧した山田コーチはシーズン最後のアジア選手権に無理やり出場させ、得意のトリプルアクセルこそ封印したものの、5種類のトリプルジャンプを成功させて優勝、復帰の足がかりを作ります。
 しかし、シーズンオフになると、もともとむらのあった伊藤選手のオリンピックへのモチベーションがなかなか上がらず山田コーチも手を焼きます。たまたま訪れた、千葉県新松戸の今はなくなってしまったDLLのリンクで、佐野稔選手のコーチだった都築コーチがロシアからルイシキンコーチを招聘して選手のトレーニングを目にして、伊藤みどり選手にに「おもしろいことをやってるから見にきなさい、どうしても滑るのが嫌だったらスケート靴を持ってこなくてもいいから」と名古屋から呼び出します。渋々、新松戸リンクへ来た伊藤選手ですが、当時の日本では珍しかったロシアンメソッドを用いた練習への興味と彼女自身もオリンピックへ向けてそろそろ練習を開始しなければという危機感もあって、ルイシキンコーチにプログラム制作を依頼します。それまでバレエの先生にアドバイスはもらうことはありましたが、基本的に山田コーチと伊藤選手との2人3脚で振り付けをしていたので、曲選びや衣装制作なども含めて完全にプログラムを第3者に任せるのは初めてでした。山田コーチいわく「うまくいかなければ、パリで世界チャンピオンになったときのプログラムをもう一度滑ればいい」という覚悟だったそうです。
 出来上がったプログラムを試してみると、プログラムが難しすぎてジャンプが跳べない。それまではどちらかというとジャンプを跳ぶことを中心にプログラムを作っていた伊藤選手にとって、アイスダンス出身のルイシキンコーチが作った「ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番」のプログラムは、ジャンプやスピンをつなぐ部分のステップや振り付けが細かく作られていて、力の配分がうまくいかず、気力体力ともにとてもフリーの4分を滑りきることができない高級品ができてしまいます。
 そこで山田コーチが音楽の編集と全体の流れ、動きのモチーフなどはそのまま使いながらプログラムを「ほとんど作り直した」そうです。このプログラムは東日本選手権でまず披露。つぢいてオリンピックと同じ会場で開催されたプレオリンピック大会ラリックトロフィーではライバルのクリスティー・ヤマグチ、スルヤ・ボナリー選手を降して優勝し、前年の世界選手権での悪夢を払拭し再び金メダル候補最有力と言われるまでに復活します。プログラムも高評価をえて、特に、フリーではトリプルルッツトリプルトウループの現在の女子でも最高の組み合わせといわれるコンビネーションジャンプを成功させ、さらにトリプルアクセルダブルトウループという最高難度のコンビネーションまで含まれた構成は、現在に至るまで女子最高難度の構成といって過言ではなかったでしょう。しかし、ピークを持ってくるのが早かったのでしょうか、年末のNHK杯でも優勝しますが、伊藤選手の満足できる演技はできずに、あせりがでてきます。当時は1月に行なわれていた全日本ではまずショートプログラムを変更、ショートプログラムのやらなければいけない必須要素の順序を変更、それにともなって音楽のつぎはぎも入れ替えたので、編集にしっくり行かないところもでてきましたが、全日本のショートプログラムはSPからトリプルアクセルコンビネーションを成功させて自信を取り戻したかに見せました。しかし、フリーで再び伊藤選手らしくない演技になってしまいます。成功すれば女子初となるプログラム中に1回のトリプルアクセルをいれるというトライも2回とも中途半端なジャンプになってしまったうえ、後半のジャンプでつまずきがありました。私は12月の広島でのNHK杯もこの神戸での全日本選手権も生で観戦することができたのですが、どちらもウォームアップを見る限り決しってジャンプの調子は悪かったわけではなく、NHK杯などはむしろ体も切れていて素晴らしかったです。ただ全日本はあきらかに体が重たく、練習不足感は否めませんでした。ご存知のように伊藤選手は常に足首の痛みと戦っていて、練習時間などに制約あるなかで全日本も迎えなければならなかったようでした。このときはオリンピック出場を争っていた八木沼純子選手と佐藤有香選手の仕上がりが素晴らしく、とくに佐藤有香選手は体の切れ、ジャンプの質ともに最高の出来で、1994年に世界チャンピオンになったときと比べるとジャンプの種類が少なかったですが、個人的にはこのときの演技が実は佐藤選手のベストではなかったかと思えるほど素晴らしかったです。話はそれましたが、伊藤みどり選手と山田コーチはフリーのプログラムも変更することを決意、オリンピックまでは1ヶ月ほどでしたが、後半が盛り上がりのかけていた部分を同じラフマニノフのピアノ協奏曲の2番に変更し、振り付けも後半のトリプルアクセルに備えて中盤は体力を温存するような構成でオリンピックへ臨みます。オリンピックでの結果はみなさんご存知の通りです。
 伊藤みどり選手の場合は圧倒的な力があったので、銀メダルであってもあえて「敗因」と書かせていただきますが、決してプログラム変更が直接的な「敗因」だとは思いません。しかしプログラムを途中で変更しなければならなくなった事情こそが「敗因」だったのではないかと思います。前シーズンから切り替えて次のシーズンへのトレーニングに入れなかったこと、オリンピックシーズンに初めてプログラムを外注したこと、充分なトレーニングができない怪我の状態…。個人的には最初にラリックのテレビ放送で見たラフマニノフの演技は、表現や音楽の調和も素晴らしく、伊藤みどり選手がチャレンジした成果がうまく発揮できていてとても好きです。盛り上がりに欠けるといわれた中盤からのスローパートもロマンティックなラフマニノフらしいメロディーがでてきて、とてもいい雰囲気でした。ただ冷静に考えてみると、伊藤選手が一生懸命こなしていた細やかな振り付けも、ロシアのダンサーのような手足が長くスタイルがいい選手がこなせばリンクでも見栄えがしてさらに良かったと思いますが、伊藤選手本来の持ち味であった切れ味鋭い動きや女子では他の追随を許さなかったスケートのスピードを封印し、そして豪快なジャンプの足かせになってしまっていたのも否めません。プログラム変更を決断した時点で、山田コーチが当初覚悟していた「パリでチャンピオンになったときのフリー」に戻していればまた違った結果があったかもしれません。ただ、オリンピック後半でみせた雄大なトリプルアクセル、プレッシャーに耐えながら最後まで滑りきった伊藤選手の姿、そして日本人初の銀メダルでも充分感動させていただいたことは言うまでもありあせん。
オリンピックシーズンのプログラム変更 サラ・ヒューズ選手の場合
 こちらはNHKで特別番組が放送されたこともあるので、ご存知の方も多いと思います。ソルトレークオリンピックシーズン、サラ・ヒューズ選手は「ダフニスとクロエ」のプログラムを滑っていましたが、全米選手権の後にプログラムの後半を変更。安藤選手、伊藤みどり選手と同じで後半に盛り上がりがかけるということで曲構成とジャンプの構成を変更します。全米選手権は全日本選手権よりさらに後の日程になりますので、たしか2週間ほどしか時間はなかったと思いますが、それでもその演技を完璧にこなして、サラ・ジューズ選手は本命のイリーナ・スルツカヤ選手やミッシェル・クワン選手を破って金メダルを獲得します。サラのコーチであったロビン・ワグナーは最近では珍しく、振り付けを専門の振り付け師に任せず彼女自身が行なっていました。また、ワグナーコーチはサラ・ヒューズ選手をコーチすることになったとき、それまでコーチしていたほかの選手をほかのコーチに受け渡ほかの選手へのレッスンをすべてやめて、サラのトレーニングに集中していました。サラの能力魅力欠点長所をすべて分かった上で振り付けも行なっていたワグナーだからこそ、短期間での振り付け変更に成功し、サラ・ヒューズに金メダルをもたらしたのでしょう。
安藤選手の振り付け変更は吉と出るか凶とでるか
 サラ・ヒューズ選手のような成功例もあるので、オリンピック直前に振り付けを変えることが悪いことばかりではないです。しかし、「マイ・ファニー・バレンタイン」は悪いプログラムではなかったですし、安藤選手も試合が始まる前までは「難しい」と自覚しながらも大変気に入ってたはず。もし、試合でうまくいかなかったの言い訳に「プログラム」を挙げてしまったなら、このプログラム変更はいい方向へ向かうとは思いません。しかし、より上位、より素晴らしい演技という前向きな考えでのプログラム変更なら大歓迎です。その結果はトリノオリンピックまでわかりませんが、それまでスケートファンは小出しにされる情報に振り回されながらやきもきすることは確かなようです。
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この記事へのコメント
TBありがとうございました!
そしてあけましておめでとうございます。
大変お詳しいですね。勉強させてもらいます。
安藤選手は、足を怪我しているらしく、その辺でも滑り込みが出来るものなのか、少々不安もあるのですが、五輪に出場するのなら、出来ないでは済まされないでしょうね。
小出しにされる情報に一喜一憂しながら(笑)、五輪を待ちたいと思います。
また、寄らせてください。
Posted by みなみ at 2006年01月02日 21:18
今はネットがあるからこれでも情報が多いほうですね。昔は新聞とかにのる小さな記事をチェックしたりしてないと、好きだった選手が引退してたのも気づかないような悲劇もありましたから(苦笑)。これからちょこちょこ情報がでてきそうですがそのたびにおっしゃるように一喜一憂しながら五輪がくるんですね・・・もう2ヶ月もとうに切ってます!?
Posted by Alex at 2006年01月02日 23:55
 Alexさん、はじめまして。ここ数年でフィギュアが好きになったにわかファンです。
 音楽とフィギュアの詳しくて見やすい内容を楽しませていただいてます。本当にありがとうございます。
 自分のブログにトラックバックをさせていただきました。安藤選手について、私は批判的な立場をとっていますが、心の中では応援していますのでご容赦いただけたらと願っています。
 私も楽しみながら勉強をしていきますので、今後ともよろしくお願いします。
Posted by ステート at 2006年01月28日 11:45
こんにちは!
TBありがとうございます。
「安藤選手について、私は批判的な立場をとっていますが、心の中では応援しています」こういう人多いと思いますよ。批判は期待感の裏返しですしね。マクドナルドでバイトしてるときに社員さんから「クレームいってくるのはマクドナルドのファンの人だけ」って言われたのを今、懐かしく思い出しました。
Posted by Alex at 2006年01月28日 17:15
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Excerpt: みんな??おめでとう(^-^)/カウント
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Tracked: 2006-01-02 06:12

NHKスペシャルの「女子フィギュア・レベル4への挑戦」を見た
Excerpt: いやぁ、アスリートも非常に悩ましい問題を抱えて大変ですね。...
Weblog: President's Brog
Tracked: 2006-01-16 04:08

フリープログラム、直前変更について
Excerpt:  既に多くの方がご存知だと思うが、安藤選手に続き、荒川静香選手もフリープログラム
Weblog: アイスステージ
Tracked: 2006-01-28 04:20

ラフマニノフ in フィギュアスケート
Excerpt: このところTVでラフマニノフの音楽を聴く機会が多い。それというのも昨今俄然注目を集めているフィギュアスケートで、日本の3選手が彼の音楽を用いたプログラムを滑っているからだ。去年の大晦日から元日にかけて..
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Tracked: 2006-02-10 21:27