来週、東京で開催されるGPF出場者の中でもトリノオリンピック金メダルが確実と思われているのが、アイスダンスのロシア代表ナフカ&コストマロフ。2004年&2005年と2年連続のチャンピオン。今シーズンのグランプリシリーズでの得点を見ているとさらに2番手以降のカップルとの差が開いたように感じます。過去8回のオリンピックのうち6回はロシア/ソ連の代表がメダルを獲っており、最有力といって過言ではないでしょう。ナフカの技術力の高さ、表現力の素晴らしさにはもともと定評がありましたが、最近は男性のコストマロフの技術力が上がってきて、以前は多かったミスが少なくなってきたことで、ぐっと安定感が増してきました。
氷上の社交ダンス
男女が組んで音楽に合わせて優雅に踊るアイスダンスを説明するのによく「氷上の社交ダンス」と言う言葉が使われます。フィギュアスケートのほかの競技のような派手なジャンプがあったりするわけではないので、「スポーツ」として観戦するには違和感を感じる方も少なくないと思いますが、スケート本来の滑るテクニックで競うおもしろさや音楽の表現の多彩さに惹かれてすっかり虜となっている熱心なファンが多いのも事実。女子シングルが急激に低年齢化するにしたがって円熟した美しい選手が多いアイスダンスの人気が欧米では急速に広がったとも言われています。同じく男女で滑るペアスケートとの違いはジャンプがないことや女性を持ち上げるリフトで男性が肩より上に腕を上げてはいけないなどの制限があり、あくまでも二人で組んで音楽を表現するという種目です。すべてのカップルが決められた同じパターンを滑るコンパルソリーダンス、リズムやテーマが毎年決められたオリジナルダンス、音楽の選択がまったく自由なフリーダンスの3種目の合計点で競われます。フィギュアスケートの競技で唯一、ボーカルの入った音楽を使用することができるというのもエンターテイメント性を高める要因にもなっています。
ナフカ&コストマロフの「カルメン」
ナフカ&コストマロフが今シーズン、フリーダンスに用意した音楽はビゼーの「カルメン」。フィギュアスケートの世界では1988年のカルガリーオリンピックで金メダルのカタリーナ・ビットと銀メダルのデビー・トーマスが、同じ「カルメン」をテーマに滑った「カルメン」対決で滑った曲としてあまりにも有名ですし、他にも多くのトップスケーターたちが挑んできた音楽です。今シーズン、初めてグランプリシリーズ中国大会で彼らの「カルメン」を見たときは正直、音楽と衣装以外どこが「カルメン」なのかピンとこず、高得点に納得できませんでした。軽いタッチでしたし終始笑顔を浮かべながら滑るナフカの姿に、これが「カルメン」なんだろうかという違和感すら覚えました。個人的にはこのカップルより2番手以降にお気に入りのカップルがいるということを差し引いてもオリンピックで金メダルを狙いにいくカップルにしては物足りなさを覚えました。
闘牛士&赤い布
それが先日のロシアカップでの彼らの「カルメン」にはなるほど、彼らはこれを表現したかったのかという糸口がつかめたような気がしました。プログラムの内容はほとんど同じでしたが、かなりトレーニングをつんだのかひとつひとつの動きが大きくきっちりできるようになり、音楽の盛り上がりに一致するようになっていました。地元ロシアで大歓声を受けて滑ったことも効を奏したようです。そこではたと、このプログラムは「カルメン」の奔放な人生を描いたのではなくて、その物語の中の闘牛士とのアバンチュールの部分だけを抜き出して表現してるのではないかなと気づきました。コストマロフの衣装が闘牛士であった時点でそれに気づくべきだったかもしれませんが・・・。特に最後の「闘牛士の行進」を使ったパートでは完全に主人公は闘牛士に扮したコストマロフであり、ナフカはカルメンというよりは、コストマロフの黒子役でときには闘牛のパートを、時には闘牛士が持つ赤い布のパートを演じる演出になっていて、闘牛の様式美を随所に取り入れたポーズやリフトで観客を沸かせる演出になっています。コストマロフが主人公、それがテーマなのかもしれません。女性より男性の衣装の方が豪華なのもその表れでしょうか。これは好きな演技かもしれない、と思い出し、グランプリファイナルやオリンピックで彼らの次の演技を見るのが楽しみになりました。
因縁のふたりが手を組んでナフカをバックアップ
このカップルのコーチはナフカの旦那様でもあるアレクサンドル・ズーリン。かつてウソワ&ズーリンとして1993年には世界チャンピオンに輝いています。そして、今シーズンから彼らのチームに加わったコーチがエフゲニー・プラトフ。ズーリン、プラトフ、ナフカの間には因縁がありまして、この3人がキス&クライに並んで得点を待つことになるとは誰も予想できなかったのではないでしょうか。
プラトフはグリシューク&プラトフとしてズーリン達と同じ頃に活躍した選手。しかもコーチが同じデユポワコーチでしたが、彼女の暴露本によると後輩格のグリシュークがズーリンを誘惑して、その上、パートナーとしてウソワから奪おうとしたため、デュポワは彼女を破門にします。そこでプラトフと新しく組むことになったのが若かりし頃のナフカだったのです。しかしプラトフは結局グリシュークの後を追ってデュポワチームを去り、再びグリシュークと組んだためにナフカ&プラトフは幻のカップルとなってしまいました。1994年リレハンメルオリンピックでは世界チャンピオンとして臨んだウソワ&ズーリンを破って金メダルを獲得したのがグリシューク&プラトフだったのです。彼らは1998年の長野オリンピックでも金メダルを獲得します。話はここでおわらないからさらにややこしいのです。プライベートでも結婚していたウソワ&ズーリンは結局離婚するのですが、しばらくの間プロスケーターとして活動をともにしていまいした。ところが、ズーリンがナフカと結婚することになるとウソワはズーリンを捨てナフカ&プラトフとしてプロの競技会やショーに出演するようになったのです。残されたズーリンは仕方なくグリシューク&ズーリンを結成、この二組が同じ試合にでたりする異常事態も発生し、大変話題になりました。
すでにズーリンもプラトフもプロスケーターとしては引退しコーチとして活躍してるわけですが、諸般の事情で今シーズンからチームを組みました。現役時代からプレゼンテーション能力に優れ、コーチ/振り付け師としてもジャッジへアピールするプログラムを作るのが得意だったズーリンと、現役時代、史上最高のテクニックの持ち主といわれたグリシュークの安定感のあるパートナーとして技術力が高く、プロになってからも緻密なステップを組み合わせるのが得意だったプラトフとが組んだことで、今シーズンのナフカ&コストマロフはさらに進化するのではないか、そんな予感をさせる「カルメン」です。
不安要素
イタリアからは前回のソルトレークオリンピック銅メダリストで元世界チャンピオンのカップルが地元トリノオリンピックを目指して復帰してくるようです。まだ一度も試合で演技を披露してないので、その力は未知数。地元の声援を受けての登場ですから強力なライバルになることは間違いありません。
しかし、ナフカ&コストマロフが力を出し切れば負ける気がしません。ジャンプがないので転倒などのリスクが少ないとされるアイスダンスですが、度重なるルールの変更により難しいリフトや氷の上でクルクルクルと体を回転させるツイズルといった転倒などの大きな失敗につながる要素が増えていて、実際に前回のオリンピックでも3位と4位のカップルが転倒をして順位を下げてしまったこともあります。ナフカ&コストマロフがオリンピックの舞台、緊張した中で平常心でいつもの演技ができるかどうか、一番の敵は彼らの心の中にありです。
Yahoo!news(こちら)でナフカ&コストマロフのカルメンのコスチューム姿を見ることができます。
ロシアカップを現地観戦された方のブログで綺麗な写真を見ることができます。
「Excited & Delighted!! - Figure Skating」
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