長生きするといろいろあるものですね。80年代前半にブラックミュージック界のマスコットガール的存在だったステイシー・ラティソウ、当時のブラック系のティーン誌の読者アンケートでは女性ボーカル部門でブレイク前のジャネット・ジャクソンやバニー・デバージなどとともに上位を争っておりました。デヴィッド・アーチュレッタをアメリカンアイドルで初めて見たとき、実は最初に思い出したのが男女の違いがありますがステイシー・ラティソウでした。早熟の天才シンガーというだけでなくボーカルのスタイルは違っていても「歌手になるべき声」を持っているという点で共通していたからです。
ナーラダ・マイケル・ウォルデンというプロデューサにも恵まれ「Dynamite!」、「Let Me Be Your Angel」(この曲、アーチーにカバーして欲しい!)、「Don't Throw It All Away」[こちらで紹介]や「Miracles」といったきらきらのポップチューンがブラックチャートでヒットしますが、今と違ってソウル系の若い女性ボーカリストがクロスオーバーしてメインストリームチャートの上位に食い込むのが本当に難しい時代で「Let Me Be Your Angel」が21位まで上昇するのが精一杯、ましてや日本にいるとラジオなどでオンエアされることもほとんど無かったため、個人的に90年代後半になってステイシー・ラティソウというボーカリストにはじめて向き合ったほど…で、あわててオークションなどですでに廃盤になっていた彼女のオリジナルアルバムのCDを集めました。
ここ数年、再発ブームにも乗って、「Let Me Be Your Angel」、「With You」、「Sneakin' Out」、「Sixteen」といったセカンドアルバムから5枚目のアルバムが相次いで再発CDとしてリリースされておりましたが、今度は「Sneakin' Out」の後、ジョニー・ギルとのデュエットアルバムをはさんでソロとしては6枚目のアルバムとして1985年にリリースされた「I'm Not the Same Girl」が初CD化されました。びっくりです。というのもこのアルバムいろいろいわくつきの作品でヒット曲が生まれず、商業的には失敗作の烙印を押されてしまっていました。
ホイットニー・ヒューストン成功の陰で
1985年というのはとても象徴的な年で、従来の黒人女性シンガーの常識を覆す未曾有の大成功を手にするホイットニー・ヒューストンがデビューした年にあたります。そしてステイシー・ラティソウが超えられなかった人種/ジェンダーの壁を簡単につきやぶって「Saving All Me Love For You」「Greatest Love Of All」「How Will I Know」といった全米No.1ヒットを次々と生み出し全世界で2500万枚を売り上げたというデビューアルバムの日本盤のオープニングを飾った「How Will I Know」(US盤は曲順が違うことを当時は知りませんでした)をプロデュースしたのはほかならぬステイシー・ラティソウの育ての親であるナーラダ・マイケル・ウォルデンでした。そして同じ年にリリースされたステイシー・ラティソウの「I'm Not the Same Girl」はナーラダが不参加、ものの本には「プロデューサーを奪われた」みたいな書かれ方もしていましたっけ。しかも、「I'm Not the Same Girl」のプロデュースは70年代に「Touch Me In The Mornig」や「Theme From Mahogany」などのNo.1ヒットを提供したマイケル・マッサーでしたが、ホイットニーデビュー大成功の立役者のひとりは「Saving All Me Love For You」「Greatest Love Of All」の作曲者でプロデューサーとしてもクレジットされているマイケル・マッサーだったという因縁まで。「I'm Not the Same Girl」はタイトルどおり、それまでの天才少女歌手から大人のボーカリストへの転換を狙らったわけですが、見事にホイットニーとマーケットがかぶってしまいまい、ホイットニーの成功に押しつぶされる形でマーケットから弾き飛ばされてしまいました。
シシー・ヒューストンを母にディオンヌ・ワーウィックを持つというホイットニーの血筋の良さ、話題性、また業界の重鎮クライブ・デイビスがアリスタレコードの社運を賭けて行ったプロモーション活動と比較するとメジャー傘下とはいえコテリオンレコードでは力不足は明らか。さらに付け加えるなら、ホイットニー・ヒューストンが、当時最も商業的に成功した黒人女性エンターテイナーというパブリックイメージを誇っていたダイアナ・ロスから女王の称号を奪い取ることはもちろんその先にはバーブラ・ストライサンドをも意識したヴィジョンを持って戦略が練られ、ファッションモデルをしていたというルックスの美しさ、そして何より年齢的に実はこの時点でホイットニーは20歳を越えて「完成品」として売り出されたのに対して、ステイシーはまだ18歳で彼女の場合は天才少女歌手としてデビューしたときの見た目の幼さをイメージをまだ引きずり、女性ボーカリストとして成功するために欠かせないファクターのひとつであるセックスアピールを強調することもできず、収録された曲はもちろんアルバムジャケットのアートワークひとつとっても路線転換の中途半端さは否めませんでした。ホイットニー・ヒューストンの成功に飲み込まれる形で「I'm Not the Same Girl」は、デビュー後、初めてチャート上の記録が残らないという惨敗を喫することとなりました。
それでも聞き所満載の好盤
そういう商業的な失敗やステイシーの歌手生命を考えた場合の戦略のミスなどはあっても、決してアルバムそのものの質が悪いわけではありません。もしあとリリースが1年早ければホイットニーのデビューともかち合わず、少女が大人への階段を上る過渡期を捉えた女性ボーカルの好盤として高い評価を受けていたかもしれません。
全曲、マイケル・マッサー作曲/プロデュースの新録アルバムというのはキャリアの長いマッサーにあっても非常に珍しいというのがまずポイント。ただし、彼は自分の曲をいろいろな歌手に歌いまわしさせるのが好きで実はホイットニーの「Greatest Love Of All」や「Saving All My Love For You」といったヒット曲も書下ろしではなかったことが知られていますが、「I'm Not the Same Girl」に収録されたナンバーのうち「Together」「I Thought It Took A Little Time 」はダイアナ・ロスが「Coming Alive」はロバータ・フラックとピーボ・ブライソンが、「Now We're Starting Over Again」(この曲を収録した幻のCD「Hot! Live and Otherwise」もめでたく今年再発売!/こちらで紹介)がディオンヌ・ワーウィックがマッサー自身のプロデュースで既に発表済み。さらに「Now We're Starting Over Again」は後に復活したナタリー・コールもマッサーのプロデュースで録音しています。ステイシー側から見れば「手抜きなんじゃない?」となりかねないところですが、ファンからすれば「聞き比べができる」という楽しみも。
なにより、ステイシーのエンジェルボイスが相変わらず素晴らしく、ぜひこの機会に当時を知る音楽ファンだけでなく、ひとりでも多くの方にこんな素敵な女性ボーカリストが存在していたということを知っていただきたいです。
「I'm Not The Same Girl」Satcy LattisawPV[こちら] Amazon HMV
収録曲
1. Can't Stop Thinking About You
2. Coming Alive
3. Now We're Starting Over Again
4. He's Just Not You
5. I'm Not The Same Girl
6. Toughen Up
7. Together
8. I Thought It Took A Little Time
関連作品
「The Very Best of Stacy Lattisaw 」 コテリオン時代だけでなくモータウンからリリースしたナンバーも収録したベスト盤。ステイシー・ラティソーの入門盤としてまずおすすめします。「I'm Not The Same Girl」からの収録がなかったのでセットで揃えても曲の重複がない!のがお徳です。
Amazon/試聴あり
「Let Me Be Your Angel」Satcy Lattisaw 1980年、当時13歳にしてリリースされたセカンドアルバムがまさかの国内盤でリリース。ナーラダらしいキュートなダンスチューン「Jump To The Beat」「Dynamite」、エンジェルボイス炸裂の「Let M Be Your Angel」「My Love」など全8曲収録。
[YouTube] Amazon HMV/試聴あり
「Sneakin' Out」Stacy Lattisaw 1982年リリースのフォースアルバム。マライア・キャリーがサンプリングした「Attack of the Name Game」の可愛らしさは15歳の年齢相応ですが、すでにバラーディアとしての貫禄すらただよう「Don't Throw It All Away」で天才少女ぶりを発揮する好盤。
[YouTube] Amazon HMV/試聴あり
「Sixteen」Satcy Lattisaw 1983年リリースのフィフスアルバム。「Black Pumps and Pink Lipstick 」という収録曲のタイトルやジャケット写真を含めてそろそろ「大人の歌手」へのステップアップを意識した内容になっていて、後にリリースされるホイットニー・ヒューストンのデビューアルバムやジャネット・ジャクソンの出世作「Control」にはこのアルバムを研究した跡がはっきりと表れています。
[YouTube] Amazon HMV/試聴あり
「To Love Again」Diana Rossダイアナ・ロスとマイケル・マッサーがコラボレートしたナンバーを集めた1981年の同名アルバムがライオネル・リッチーとデュエットした「Endless Love」など同時期に録音されたバラードナンバーを追加してCD化。「Touch me In The Morning」「Theme From Mahogany」「It's My Turn」といった大ヒット以外にも「I Thought It Took A Little Time」「After You」「To Love Again」といった隠れ名曲多し。ステイシー・ラティソウがカバーした「Together」はシングルバージョンで収録。
Amazon/試聴あり HMV/試聴あり
「Hot! Live and Otherwise」Dionne Warwickライブ録音+新曲の「Live & More」形式で1981年にリリース。廃盤後はオークションで200ドル以上の価格で取引されるなど幻のCD扱いでしたが、今年めでたくイギリスでCDが再登場。ステイシー・ラティソウがカバーした「Now We're Starting Over Again」を収録。
Amazonで購入する HMV/試聴あり
「Good To Be Back」Natalie Coleマイケル・マッサー作/プロデュースのビッグヒット「Miss You Like Crazy」を含むポップアルバム。ディオンヌ、ステイシーが歌った「Now We're Starting Over Again」も「Starting Over Again」のタイトルで収録。彼女はその後、亡父ナット・キング・コールの後を継ぐようにスタンダード路線へ舵を切ります。
Amazon/試聴あり HMV/試聴あり
「Whitney Houston」Whiteny Houstonダイアナ・ロスとつながりの深いマイケル・マッサーやステイシー・ラティソウの育ての親であるナーラダ・マイケル・ウォルデンをプロデューサーに起用し成功したデビューアルバム。意外にジャーメイン・ジャクソンとの相性がよく、シングルカットされませんでしたが「夢の中のふたり/Nobody Loves Me Like You Do」がおすすめ。
Amazon/試聴あり HMV/試聴あり
「Control」Janet Jacksonデビュー当時はライバルとして競い合ってたジャネット・ジャクソンですが、ステイシーの勢いが弱くなっていく一方で、ジャム&ルイスを起用した今作でスーパースターの仲間入り、大きく水をあけられてしまいました。ナーラダ&ステイシーが生み出したポップでキュートなダンスチューンに対するミネアポリス勢の回答といった仕上がり。
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そぉなんですよね、実はこの夏の一番のお目当てがこのステイシー・ラティソウ『アイム・ノット・ザ・セイム・ガール』だったりいたします(LPも買ったっきり2回ぐらいしか聞いてませんし…)。
ステイシーもこの後モータウンに移って大人のシンガーへとイメージ・チェンジしてしまいますものね。これが最後の少女時代の輝きかだったなと。
楽しみです!
○=最後の少女時代の輝きだったかなと。
(間違えました。)
こんにちは!
楽しみですよねー。
このアルバム、バラード系はさすがマッサーな仕上がりなんですけどリードシングル含めてジャンプ系のナンバーがナーラダのプロダクションと比較すると切れが悪いかなと。無理してそのあたりまでマッサーに任せる必要があったかどうかが謎です。
今となってはそういったレアなものも含めて楽しめるわけですが。